後縦靭帯骨化症は遺伝病か?

後縦靭帯骨化症(OPLL)に関して難病情報センターによれば、

OPLLの病因に関して多くの説があるが、現在のところ不明である。全身的骨化素因、局所の力学的要因、炎症、ホルモン異常、カルシウム代謝異常、糖尿病、遺伝、慢性外傷、椎間板脱出、全身的退行変性などがあげられている[1, 7]。

またOPLL患者の家系調査により、高率な多発家系の存在することが明白となり、本症の成因に遺伝的背景が大きな役割をなしていることは疑う余地のないところとなっている[8]。近年、全ゲノム相関解析(GWAS)にていくつかのゲノム領域が、OPLLの発症と強く相関することが発見されており、今後本症の疾患感受性遺伝子の特定が期待される[9]。

現在のところ原因不明とな。

全文読める上記参考文献[8]を見てみると、

From the etiological point of view, OPLL is divided into 2 categories; primary (idiopathic) and secondary (syndromic). The latter includes OPLL associated with monogenic diseases like hypophosphatemic rickets/osteomalacia.

(中略)

Also, OPPL is a frequent complication in patients with endocrine disorders including hypoparathyroidism and acromegaly/gigantism.

(中略)

Since OPLL is a multifactorial disease, both genetic and environmental factors must be clarified for better understanding of its etiology and pathology as well as for correct diagnosis, prediction of prognosis and effective treatment of the patients.

ということで、ポイントとしては、

・OPLLは一次性(特発性)二次性(続発性)とに分けられる。

・二次性は、低リン血症性くる病/骨軟化症のような、責任遺伝子の明らかな遺伝病や、副甲状腺機能低下症や先端肥大症のような内分泌疾患続発する。

多くのOPLLは一次性であり、これは遺伝的素因と環境素因を含む多因子が絡んだものと考えられている。

現在関係が示唆されている遺伝子リストを載っけてみる(いっぱいある…)。

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すなわち、OPLLは遺伝病とは言い切れない

頸髄損傷C7レベルにて自動車運転は可能か?

慶応義塾大学病院が提供するKOMPASによると、頸髄損傷C7レベル、つまりC6温存では更衣、自己導尿、ベッドと車いす移乗車いす駆動、自動車運転が可能とのこと。

補助具は必要ながら、C6温存の患者が運転している動画youtubeで視聴できる。

自動車運転が可能なことは分かったが、意外と複雑なのが移乗で、ベッドと車椅子間の移乗はC6温存で可能だが、車椅子間の移乗はC7温存でやっと可能となる。

下半身が麻痺している頸髄損傷において、移乗には上肢の力だけが頼りである。アームレストを乗り越えなければばらず、寄せるにも車輪があって制限のある車椅子間の移乗では、上腕の屈筋だけでなく伸筋による拮抗が体勢を保持するために必要なのだろう。

最も複雑なのは自己導尿である。先の引用では簡単に書いてあったが、実は自己導尿可能レベルには性差がある。

脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン(2011年版)CQ13によると、

CQ13 脊髄損傷患者の自己導尿可能な麻痺レベルは?

運動機能が完全麻痺の男性頚髄損傷患者では,残存上肢機能が改良 Zancolli 分類にて C5B,同様に女性頚髄損傷患者では,ベッド上開脚位であれば C6B1 までなら実施できる可能性がある (それぞれ,左右差がある場合は下位のレベルにて).(推奨グレード C1)

改良Zancolli分類は下表のとおり。

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C5Bは上腕二頭筋C6B1(I)は手根伸筋温存らしい。筋肉の起始・停止が一覧になってるアンチョコを置いておこう。

これはやはり男性の方が外尿道口を視野に収めやすく、かつ引き寄せられるという構造的差異に起因するのだろうか。

関節リウマチの疾患活動性指標にSteinbrockerのClass分類は含まれるか?

関節リウマチ(RA)に詳しい大阪大学免疫アレルギー内科のサイトを参考に、RAの評価指標をざっくり分けてみると以下のようになる。

病期分類として、SteinbrockerのStage分類LarsenのX線のGrade分類X線所見で分類、SteinbrockerのClass分類生活における支障度合で分類。

疾患活動性指標として、CDAI (clinical disease activity index)、SDAI (simplified disease activity index)、DAS28 (disease activity score 28 joints)、ACRコアセットの4つがありそれぞれ細かい違いはあるが、大枠は罹患関節数とVAS(visual analog scale)、炎症反応の総計で評価。

身体障害度指標として、HAQ (health assessment questionnaire)は生活における支障度合で評価。

ここまででも息切れしそうなのに、さらに寛解基準に含まれる概念としてBooleanによる定義というものがある。

これは何ぞやと調べてみると、

臨床試験における寛解Boolean型 による定義では,swollen joints count(SJC), tender joints count(TJC),patient global assessments(PtGA:患者全般的評価),CRP(mg/dl)がすべて≦1,

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/24/2/24_102/_pdf

とあり、つまりBooleanの定義には罹患関節数やVAS(PtGA)、炎症反応(CRP)が含まれており、その内容は他の疾患活動性指標そっくりそのままである。

うちの卒業試験では、疾患活動性指標として誤っているものに、BooleanとLarsen正しいものに、DAS28、CDAI、SteinbrockerのClass分類、が模範解答となっていた。

しかしLarsenとSteinbrockerのClass分類は明らかに病期分類

DAS28とCDAIは明らかに疾患活動性指標

Booleanをどう扱うのかが難しいところなのだが、上記のように寛解基準においてBooleanは他の疾患活動性指標と並列に語られてる上、内容もほぼ同じ。

従って真の正解は、DAS28、CDAI、Booleanではないかと思うのですがいかがでしょうか。

下垂足と尖足の違いは?

どちらも足が底屈位になっているという点で、よく似ている。

下垂足について日本整形外科学会の解説をみてみると、

足首(足関節)と足指(趾)が背屈で出来なくなり、下垂足(drop foot)になります。

(中略)

膝関節の後方で坐骨神経から腓骨神経が分岐し、腓骨神経が膝外側にある腓骨頭の後ろを巻きつくように走行します。その部は、神経の移動性が乏しく、骨と皮膚・皮下組織の間に神経が存在するため、外部からの圧迫により容易に麻痺が生じます。

とある。上記引用の「腓骨神経」とは、総腓骨神経を指すと思われる。

基本的なこととして、足関節を背屈させる筋肉である前脛骨筋は、坐骨神経の1枝である総腓骨神経から分枝した深腓骨神経筋枝で支配されている。こちらの絵を見ると分かるが、ちょうど分枝するかしないかの総腓骨神経が腓骨頭の外側を回り込んでいて、正座や足を組むなどすれば圧迫されて麻痺することは想像に難くない。

つまり下垂足は腓骨神経麻痺による神経性障害である。

一方、尖足こちらに詳しい。

一般に尖足の原因としては,1. 不良肢位に長時間おかれた静力学的変形,2. 下垂足を含む麻痺性尖足などの筋力不均衡,3. 骨関節由来によるものなど多々挙げられる(表1).

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尖足って色んな原因があるんですね。

てっきり尖足はアキレス腱や腓腹筋の拘縮で足が底屈位に固定される可動域障害のみで起こると思っていたのだが、上記引用を見て衝撃尖足の原因にはっきりと下垂足が含まれているではないか。そもそもこの報告は、圧迫によって起きた腓骨神経麻痺が原因で尖足になった患者に対し、拘縮してしまったアキレス腱を延長させる手術を施行したというものである。

確かに慢性的に総腓骨神経が麻痺すれば、足関節を底屈させる腓腹筋やその腱であるアキレス腱は収縮したまま廃用的に拘縮してしまうと考えらえる。

下垂足と尖足は全く別物と思っていたが、実は密接な因果関係にある両者だったのでした。

自律神経過緊張反射とは?

脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン(2012年版)CQ40によると、

自律神経過緊張反射(autonomic hyperreflexia,autonomic dysreflexia)は,主としてT5~6レベルより高位の脊髄損傷患者にみられる自律神経の異常反射で,麻痺部に生じるさまざまな刺激が引き金となって発生する。

原因として麻痺部の疼痛刺激や管腔臓器の膨満に起因するものが多く,特に尿閉カテーテルの閉塞,内視鏡・膀胱内圧測定・膀胱造影などによる膀胱充満が最も多い。膀胱充満の刺激は膀胱からS2~4を経由して脊髄を上行して脳に至るが,この刺激はT5~L2のレベルから出る交感神経枝を介して麻痺部の血管を収縮させる。血管の収縮により血圧が上昇すると,頸動脈洞や大動脈弓の圧受容器が反応して心拍数の減少,動脈の拡張により血圧上昇を抑制するが,脊髄損傷では脊髄の損傷レベル以下に抑制の命令が伝わらず,麻痺部の血管拡張がみられない。このため,血圧上昇を抑制できず,一方で非麻痺部には血管の拡張による症状が出現する。また,迷走神経を介して徐脈発作もみられる。

平たく言ってみる。

膀胱充満刺激が感覚神経を介して上行性に脳に伝わると、交感神経が興奮して血管が収縮し、一旦血圧が上がる。正常であれば圧受容器のフィードバックにより血管が拡張し、血圧の上昇は抑制される。ところが脊髄損傷があると、損傷レベル以下に抑制が伝わらないため、血管が拡張せず血圧は上昇する。

うーん、意味分からん

高位がT5〜6レベルより上位の損傷でみられるってのは、血圧上昇に与する交感神経がT5〜L2から出るからとしても、疑問がふつふつ。

脊髄損傷があるならば、なぜ膀胱充満刺激が上行できるのか?

抑制命令が下行性に伝わらないのに、なぜ交感神経による血管収縮は伝わるのか?

そんな迷える子羊に30年以上も前の論文が解を授けてくださった。

すなわち第4胸髄から第2腰髄にわたる範囲より起始する交感神経は延髄を中心とする上位神経中枢により抑制的コントロールを受けている.上位脊髄損傷では,この中枢よりの支配が断絶されるため,膀胱などからの刺激は何の抑制も受けぬままに交感神経へ流れて行き,反射弓を形成する.その結果,脊髄損傷レベルより下の支配域において血管の収縮をおこし,これが発作性高血圧となって出現する。血圧上昇の結果,大動脈弓および頚動脈洞の圧受容体を介して頭頸部の血管拡張および迷走神経反射が惹起される.その結果,頭痛,徐脈,鼻粘膜うっ血による鼻閉となり,さらに血管拡張→体温上昇により発汗をひきおこす.

胸腰髄レベルの交感神経は正常であれば上位から抑制されているけど、その間で脊髄が損傷してしまうと抑制が外れた易刺激状態で、だからこそ膀胱が充満したくらいの刺激で過剰に反射してしまい、血圧が上昇、上位からの抑制も届かない

おまけに損傷高位より上では懸命に血圧を下げようと血管拡張するために様々な合併症が生じるとな。

ああ、フリスク10粒一気に食べたくらいの爽快感です。

ちなみに、自律神経過緊張反射は可及的速やかに対処が必要な緊急事案だそうな。T6レベル以上の脊髄損傷をみたら気をつけなければなりませんてことで、いつか読むかも役立ちそうな資料

膀胱尿管逆流の術式は?

探せば良い絵が落ちてるもんです。全て画像はこちらから。

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(上)Politano-Leadbetter法: 元の尿管口より近位に切開を入れ、その穴から切離した尿管を挿入、粘膜下のトンネルを通して、元の尿管口に繋ぐ

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(上)Glenn-Anderson法: 膀胱に外切開入れずに尿管を膀胱側へ引き出してきて遠位側の粘膜下トンネルを通して、尿管口を新しく作る。尿管の長さに余裕がないとできない。

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(上)Cohen法: 尿管を膀胱側へ引き出してくるのはGlenn-Anderson法と同じ。もう一方の尿管口の近くに新しい尿管口を形成。こちらもやはり尿管の長さに余裕がないとできない。

術後の逆行性尿管アクセス、つまり尿管鏡など入れる場合に、変曲点の多いCohen法が最も困難になると思われるのだが、2016年現在、最も代表的な術式はそのCohen法なんだそうな(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsejje/29/2/29_248/_pdf)。きっとそこには理由があるんでしょうけど、深追いはここまで。

橋排尿中枢より上位の障害で排尿筋-尿道括約筋協調不全は起きるか?

蓄排尿に関わる神経核は高位から、大脳橋排尿中枢(PMC: pontine micturition center)、胸腰髄核(副交感神経)、仙髄Onuf核(交感神経)の4つで構成。

蓄尿時は、大脳ー(抑制)→PMC---仙髄Onuf核からの陰部神経→内尿道括約筋収縮

排尿時は、大脳---PMCー(興奮)→胸腰髄核からの骨盤神経→膀胱平滑筋収縮

排尿筋-尿道括約筋協調不全(DSD)というのは、脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン(2012年版)CQ6によると、

仙髄より上位の脊髄障害による神経因性膀胱において,(排尿筋過活動による)排尿筋収縮と同時に尿道括約筋の不随意収縮が生じる状態を指す。

と定義される。つまり、PMCと仙髄Onuf核との間のどこかが損傷して自律神経のバランスがうまく取れなくなり、内尿道括約筋も膀胱平滑筋も同時に収縮しちゃって、排尿したいんだか蓄尿したいんだかどっちつかずな状態ということですかね。

そもそも疑問に思っていたのは、PMCより上位が損傷した場合だったのだけど、それって常排尿時と同じと考えられるわけで、DSDも起こり得ないし、排尿しっぱなしなので残尿も無いことになる。

で、新たにDSDの時の残尿具合が気になった訳だけども、

脊髄病変では過活動膀胱(尿意切迫,頻尿,時に尿失禁をともなう)と残尿の両者が同時にみられることが多い.

(中略)

脳疾患では残尿が通常みられず,過活動膀胱が典型的にみられる.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/53/3/53_181/_pdf

ということなので、お後よろしく以下に集約いたしました。

PMCより上位損傷: DSDなし、過活動膀胱にて残尿なし

PMCと仙髄Onuf核間損傷: DSDあり、過活動膀胱と残尿どちらもあり