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ACTH値が不明でもCushing症候群を鑑別できるか?

内分泌 卒業試験

Cushing症候群を見たら、まずは下垂体性か非下垂体性かを鑑別するためにACTH値に飛びつきたくなるようなもんだが、さてここで次の問題。

28歳の女性.1年前から徐々に進行する中心性肥満,顔面の多毛症,高血圧を認めている.身長154cm,体重64kg,BMI27.0,顔面は円形,赤ら顔で,下腹部に赤色皮膚線条,鎖骨上と背部に脂肪沈着を認め,近位筋の筋力低下が著明である.血液検査:Na 142mEq/l,K 3.2mEq/l,血清コルチゾール(午前8時)21µg/dl,(午後12時)19µg/dl(基準値 7~18),血漿レニン活性1.0ng/ml/h(基準値0.8~2.4),血漿アルドステロン濃度180pg/ml(基準値50~200).本症例のクッシング症候群で最も可能性が高い原因を一つ選べ.
(1) 副腎皮質癌
(2) 副腎皮質腺腫
(3) 下垂体性クッシング病
(4) 医原性クッシング症候群
(5) ACTH非依存性大結節性副腎過形成

お気付きの通り、ACTH値は与えられていない。これでどやって鑑別すんねん、という焦りを抑えてゆっくり考えてみる。

まず身体所見やコルチゾール微高値、日内変動消失などから、Cushing症候群は間違いなく存在しよう(問題文に書いてあるけど)。

次に、アルドステロンは基準値内だがやや高値。一方でレニンは基準最低値に近い。ということは、レニン抑制がかかっているにも関わらず、アルドステロン産生が亢進していると疑われる。そもそもコルチゾール高値であるから、アルドステロンは抑制傾向にあるはず

つまり、この症例ではコルチゾールとアルドステロン両方が増加している。

では、選択肢(1)(2)(5)の副腎皮質性についてこの報告をもとに吟味してみよう。

(1)副腎皮質癌

癌専門病院と内分泌専門の病院・部署で頻度に差があるものの,機能性の癌が多く,内訳は成人の場合WHO分類によるとCushing症候群(45%),Cushing症候群と男性化(45%),男性化のみ(10%)で,アルドステロン産生癌はエストロゲン産生癌とともに稀で1%未満である.

もし副腎皮質癌であれば、コルチゾールのみ増加、あるいはコルチゾールとDHEA増加、あるいはDHEAのみ増加の3型が主となる。残念ながらDHEA値が与えられていないが、アルドステロン増加が稀という点で否定的だろう。

(2)副腎皮質腺腫

DHEAを産生する腺腫は稀なので、アルドステロンとコルチゾールを産生する腺腫についてみると、

アルドステロン産生腺腫(APA)

(中略)

通常APAは小さいので,コルチゾールの有意な産生はなく,皮質深層部の緻密細胞層の萎縮・消失はない.しかしAPAはしばしばP450aldoとP45011βの両者を有するhybrid cellからなるので,まれに4cmを越える腫瘍では,有意のコルチゾールも産生してpreclinical Cushing症候群を呈し,副腎皮質の緻密細胞層は萎縮・消失する.

稀にコルチゾールを産生することもあるけど、基本アルドステロンのみ増加。あってもアルドステロンが優位となるため否定的

コルチゾール産生腺腫

(中略)

大部分のコルチゾール産生腺腫は緻密細胞に3βHSD活性を有し,DHEAなどの副腎性アンドロゲンを産生することは少なく,また上記の通り非腫瘍部副腎皮質は萎縮性のため網状層からのDHEA産生もなく,副腎性アンドロゲンの上昇はないことが多いのに対し,下垂体性Cushing症候群では,副腎皮質は下垂体腺腫からの過剰の ACTH刺激により,血中・尿中の副腎性アンドロゲン・17KSは増量する.また副腎皮質癌でもしばしば副腎性アンドロゲンは上昇し,両者と腺腫とのよい臨床的鑑別点 となる.後述するAIMAHと類似の組織像を呈する腺腫は肥大しているので,臨床的に癌との鑑別を要することが多い.

おっとここで(5)ACTH非依存性大結節性副腎過形成(AIMAH)についても述べられております。

コルチゾール産生腺腫とAIMAHは共に副腎皮質原発性Cushing症候群に分類されているので、コルチゾールのみ増加という理解でよろしいかと。

(4)医原性はコルチゾール紛いのものが作用するので内因性コルチゾールはそもそも抑制されるはずで、この病態に合致しない

以上、長々とみてきましたが、コルチゾールとアルドステロンがどちらも微増、しかもコルチゾール優位で増加するのは、上流の下垂体から分泌されるACTHの異常でしか説明できないACTHによるアルドステロン合成調節作用はコルチゾールに対してよりもよっぽど弱い事実も生きてくる。

従って、答えは(3)の下垂体性クッシング病

最初からACTH値出してたらものすごく単純な問題になるんだけど、ここまで深く考えさせる辺り、流石の一言に尽きます、Prof. Gentleman。